データが示す投票の決め手—「経済」の影響力(「2024年の『あの選挙』を科学する 自民党はなぜ負けたのか」開催レポート)

3月2日(日)、選挙振り返りセミナー「2024年の『あの選挙』を科学する 自民党はなぜ負けたのか」を開催。ゲストには、『選挙との対話』に論考を寄せ、過去2回のセミナーにも登壇された飯田健氏と、アメリカ政治外交を専門とする三牧聖子氏をお迎えしました。

冒頭、飯田氏からの基調講演では低投票率・野党共闘不在にも関わらず与党過半数割れとなった昨年衆院選について、なぜそのようなことが起きたのか?状況証拠・データから分析していただきました。トピックをご紹介します。

【飯田健氏基調講演でのトピック】

 

  • 選挙期間が短く、争点が見えにくかった衆院選
  • 自民党支持率と議席率の乖離は過去20年で最少
  • 重要な投票時の指標は「経済」
  • 実収入と国民民主党の得票率変化に正の相関
  • 自民党から国民民主党へ流れたのは、さらなる経済的な損失回避のため?

投票の動機は「経済」

飯田氏の発表の中で、参加者のみなさまからの関心が特に高かったのは、国民民主党へ投票した層と「実収入の減少」や「経済の先行きへの不安」との間には相関が見られた点でした。

自民党政権が続くことで損失を被ると考えた人々が、政権担当の実績がない国民民主党の不確実性にむしろ魅力を感じ、選択肢とするようになったのではないかという見解には、驚きと同時に納得の声も。

国民民主党は、2021年の衆議院選挙で立憲や維新に投票したから層から票を得た形で24年の選挙で得票数を増やしたわけではなく、自民党へ投票した層から票を多く得た形で、増やしていることも説明されました。他方、安全保障や原発政策など、自民党との政策の近さを考えると、自民党へ不満を持った層の代替としての魅力になったことも語られました。

飯田氏の基調講演を受けて三牧氏は、アメリカ大統領選挙でも経済が争点となったことを指摘。ウクライナ支援や移民政策、政府機関の解体など、「私たちの税金が理不尽に使われている」という納税者の意識を刺激するトランプの手法と、日本の状況との共通点が示されました。さらに、「痛税感」を持つ層が投票のボリュームゾーンとなり、今回の劇的な選挙結果を生んだのではないかとの考察も行われました。

また、投票先として「投機的」ともいえる政党が注目を集めるようになった要因として、これまでマスメディアが主要政党を中心に報道していた一方で、ソーシャルメディアの台頭により、有権者がそれ以外の選択肢を知る機会が増えたことが挙げられました。その結果、「賭けではなく、弱者にはセーフティネットを」という理念を掲げる政党の支持が薄れている現状について、課題意識が共有されました。

他方で飯田氏からは、バイデンインフレが民主党離れを生んだとする報道での語られ方は実態と異なる、という研究も紹介。スローガンとしては経済政策を掲げつつ、参加動機や投票動機に人種意識や移民問題などが重視されているとして、表向きのメッセージが実像を覆い隠すリスクについて触れられました。

「争点化」しないと動かない社会課題

選択的夫婦別姓や同性婚といった社会課題が、世論調査では賛成多数であるにもかかわらず、なかなか実現に至っていない日本の状況に話が及ぶと、日本ではアメリカのようにそうした「アイデンティティ・ポリティクス」に関わる問題がそもそも争点にならないとの見解を飯田氏が提示。

対して荻上からは、選挙で争点化されない限り、政策決定の優先順位が上がらないという点も指摘しました。 一度の国会で審議される法案は約80本。閣議決定なども踏まえて単純化すると、「100番手以内の論点」に位置づけられなければ、政策として前進しにくい状況があることに言及し、国民民主党は「103万円の壁」を新たな議題設定としたのに対し、今後、他の政策を議題設定できるかどうかは、各政党に大きく問われることだと述べました。

また荻上は、今後はさらにさまざまな選挙で、「経済政策が差別の隠れ蓑として利用されるリスク」も指摘。療養費や介護、社会保障の議論などで、「現役世代/高齢者」「日本国民/外国住人」といった対立言説に繋がりやすいことに注目しました。

飯田氏は基調講演冒頭で、なぜデータを取るのかという説明をされていました。投票用紙には、理由を書く欄がない。そのため、いったい何が信任されたのかは、誰にもわからない。政治家は時に、好き勝手に信任理由を語れてしまう。だからこそ政治学においては、投票動機なども含めて検証できるよう、調査を重ね続けるのだと。

つまり調査は、市民から社会をチェックするための大事な道具だというのです。そのような役割を、本セミナーでも担えたのではないかと思える、重要な機会となりました。

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2024年の衆院選では、自民党が少数与党となり、野党の存在感が増しました。一方で野党も、第一党となる立憲民主党を中心に協力しあうのではなく、第三極の活性化に伴う競争状況。これまで第三極として目立っていたのは日本維新の会は、この選挙では議席を減らしました。他方で国民民主党が躍進し、その経済政策が注目されています。さらに、日本保守党、れいわ新撰組などの「諸派」も議席を増やしたのも特徴的です。野党への投票行動は、どのようなものだったのか。第三極は、そして諸派は、誰が支持しているのかを語り合います。