
チキラボでは、2021年6月から定期調査「社会抑うつ度調査」を行っています。その第13回目の調査を、2024年9月30日〜10月2日にかけて実施しました。この記事では、調査から見えてきた、日本で暮らす人々のメンタルヘルス状況をご報告したいと思います。
第13回目「社会抑うつ度調査」の結果は、すでにいくつか発信してきましたので、ぜひこちらの記事・コラムもご覧ください。
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- 防災用物資の自治体備蓄に格差 個人の備えで考えるべきことは?(リサーチチームコラム)
チキラボの「社会抑うつ度調査」では、人々の心理状態の推移を追いかけています。災害や景気、政治イベントやメディアイベントなどによって、メンタルヘルスがどう変化するのか。そのデータをもとに、自殺対策やメンタルケアをはじめとした、様々な対策・提言につなげていくことをチキラボでは目指しています。
調査手法は、株式会社アイブリッジのモニターを対象にしたウェブ調査となっております。一定の割り付けを行いつつ、ランダムサンプリングによって調査対象者を抽出しているため、日本社会の一般的傾向を推計できるデータとなっています。また、データの精度を少しでも上げるためにサティスファイス項目(文章を読んで回答しているかを尋ねる疑似質問)を設け、その質問をクリアできた回答者のみを「有効回答」とし、分析をしています。
第13回調査では株式会社アイブリッジが保有するモニターのうち、18〜79歳の男女1003名の回答を得ました。全国の地域・性別・年齢の人口分布に合わせて調査対象者の割付を行っています。最終的には2つのサティスファイス項目を通過した846名を有効回答とし、分析をしています。
I . 回答者の基本データ
はじめに回答者の基本データについて確認しておきたいと思います。


図1 就業形態

図2 学歴分布

図3 過去1年の家庭の収入
Ⅱ.メンタルヘルスを構成する4つの要素
チキラボの調査では、メンタルヘルスを「抑うつ」「不安障害」「孤独感」「人生満足度」の4つの要素で把握を試みています。
「抑うつ」は以下の9つのことが、2週間の間にどのくらい頻繁にあったかを質問することで、測定していきます。
- 物事に対してほとんど興味がない、または楽しめない
- 気分が落ち込む、憂うつになる、または絶望的な気持ちになる
- 寝付きが悪い、途中で目がさめる、または逆に眠り過ぎる
- 疲れた感じがする、または気力がない
- あまり食欲がない、または食べ過ぎる
- 自分はダメな人間だ、人生の敗北者だと気に病む、または自分自身あるいは家族に申し訳がないと感じる
- 新聞を読む、またはテレビを見ることなどに集中することが難しい
- 他人が気づくぐらいに動きや話し方が遅くなる、あるいは反対に、そわそわしたり、落ちつかず、ふだんよりも動き回ることがある
- 死んだ方がましだ、あるいは自分を何らかの方法で傷つけようと思ったことがある
「不安障害」は以下の7つのことについて、同様に2週間の間にどのくらい頻繁にあったかを質問することで、測定していきます。
- 緊張感、不安感または神経過敏を感じる
- 心配することを止められない、または心配をコントロールできない
- いろいろなことを心配しすぎる
- くつろぐことが難しい
- じっとしていることができないほど落ち着かない
- いらいらしがちであり、怒りっぽい
- 何か恐ろしいことがおこるのではないかと恐れを感じる
「孤独感」は以下の3つのことについて、「ほとんどない」「たまにある」「よくある」の3件法で測定していきます。
- あなたは、自分に仲間付き合いがないと感じることがありますか
- あなたは、疎外されていると感じることがありますか
- あなたは、他の人から孤立していると感じることがありますか
「人生満足度」は以下の5つのことについて、「全くそう思わない」から「とてもそう思う」までの5件法で測定していきます。
- 大体において、私の人生は理想に近い
- 私の人生は素晴らしい状態である
- 私は私の人生に満足している
- 私はこれまでの人生の中で、こうしたいと思ったことはなしとげてきた
- 人生をもう一度やり直せたとしても、変えたいことはほとんどない
これらの尺度を総合的に用いることでメンタルヘルスの状態を測ることができます。
それでは、それぞれのメンタルヘルスの構成要素が、どのような状況にあるか、過去調査からの推移も確認しながらみていきたいと思います。「抑うつ」と「不安障害」については、「中程度以上」の人の割合の推移となっており、孤独感と人生満足度については平均値の推移を年代別にみていきます。
Ⅲ. 男性内部でのメンタルヘルスに格差の可能性?「抑うつ度」「不安障害」「人生満足度」いずれも前回より上昇
まず、「抑うつ」の中程度以上の人の割合の推移です。前回調査2023年9月からの推移に注目すると、相対的に大きく変化しているのは10〜30代の男性と、60〜70代の男性となっています。統計的に確かめても、若年男性層の方が高齢層よりも抑うつ程度の高い人が多いという傾向にあることがわかりました。2023年9月調査では、10〜30代女性の割合が最も高かったですが、今回の調査では10〜30代男性の割合が一番高くなる結果となりました。

図4 「抑うつ」中程度以上の割合の推移
次に「不安障害」についてです。こちらも中程度以上の人の割合の推移を確かめてみましょう。先ほどの「抑うつ」と似た動きになっているように見えます。つまり男性においては若年層(18歳〜20代)で不安障害の程度が高い人が多く、高齢層(60・70代)で少ないと言えそうです。そして今回の調査は若年男性の不安障害が同年代の女性と同程度となっており、全体の中で高い数値にもなっていることがわかります。

図5 「不安感」中程度以上の割合の推移
続いて孤独感の推移を確認しましょう。こちらは平均値の推移になります。男女ともに過去調査から大きな変動はなく男性の高齢層で若干数値が低下しています。

図6 孤独感の平均値の推移
最後に「人生満足感」の推移です。男女ともに大きな変化はありませんが、男性の若年層ではやや上昇傾向にあるように見えます。ここまでみてきた「抑うつ」や「不安障害」で上昇傾向にあった若年男性が、一方で人生満足感も上昇させているということは男性内部でのメンタルヘルスに格差が生じている可能性があるのかもしれません。

図7 人生満足度の平均値の推移
Ⅳ. まとめ
この記事では、メンタルヘルスの推移を年代別・男女別にみてきました。示した結果は単純集計のシンプルなものでしたが、長期的な推移を追うことで「今」の概況を大雑把に知ることができます。今後、個人の性格特性や社会的な状況ごとに分析を行い、どのような人ほど精神的健康を崩してしまいやすい傾向にあるのか、さらなる分析を進めていきたいと思います。
【謝辞】調査票の設計・実際・データ整理・集計表の作成、分析は大川明李さんにご協力をいただきました。